大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

長崎地方裁判所 平成7年(わ)29号 判決

本店所在地

長崎県西杵郡時津町西時津郷六番地一

有限会社

更雀

右代表者代表取締役

三浦俊造

本籍

長崎市三景台町一五番

住居

長崎市三景台町一五番五号

会社役員

三浦俊造

昭和二一年一二月二〇日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官加島康宏出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人有限会社更雀を罰金一五〇〇万円に、被告人三浦俊造を懲役一年にそれぞれ処する。

被告人三浦俊造に対し、この裁判確定の日から三年間、右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人有限会社更雀(以下「被告人会社」という。)は、長崎県西彼杵郡時津町西時津郷六番地一に本店を置き、遊技場の経営等の業を営むもの、被告人三浦俊造は、同社の代表取締役として、その事業全般を統括しているものであるが、被告人三浦は、被告人会社の右業務に関し、法人税を免れようと企て、売上げを一部除外する等の方法により所得を秘匿した上

第一  平成三年三月一日から平成四年二月二九日までの事業年度における、被告人会社の実際所得額が、二三五七万七三一〇円であったにもかかわらず、同年四月三〇日、長崎市松が枝町六番二六号所在の所轄長崎税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が零で、これに対する法人税額は零である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成七年押第九号の1)を提出し、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額七七〇万二八〇円を免れ

第二  平成四年三月一日から平成五年二月二八日までの事業年度における、被告人会社の実際所得額が、七九七七万八一三六円で、これに対する法人税額は二九一一万七二〇〇円であったにもかかわらず、同年四月三〇日、前記長崎税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一四二万四八一三円で、これに対する法人税額が一五万八二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同号の2)を提出し、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額との差額二八九五万九〇〇〇円を免れ

第三  平成五年三月一日から平成六年二月二八日までの事業年度において、被告人会社の実際所得額が二億一四四三万八二六二円で、これに対する法人税額は七九五八万四七〇〇円であったにもかかわらず、同年五月二日、前記長崎税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一億五一六二万〇四七二円で、これに対する法人税額が五六〇二万七九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同号の3)を提出し、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額との差額二三五五万六八〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人三浦俊造の当公判廷における供述

一  同被告人の検察官に対する供述調書(乙22)及び大蔵事務官に対する各質問てん末書(乙2ないし9、11ないし16、18、19)

一  同被告人の大蔵事務官に対する申述書(乙24)

一  立川和美(甲6)、中川快也(甲25)、山口宏二(甲33)の検察官に対する各供述調書

一  立川和美(甲5)、上瀧正文(甲29)、山口宏二(甲32)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の各査察官調査書(甲10ないし19)

一  大蔵事務官作成の証明書(甲37)及び検査てん末書(甲42)

一  検察事務官作成電話聴取書(甲40)

一  被告人会社の商号登記簿謄本(乙25)

判示第一、第二の事実について

一  冨永辰巳(甲7)、満本玲子(甲8)の検察官に対する各供述調書

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲34)

一  押収してある平成四年二月期法人税確定申告書一綴(平成七年押第九号の1)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲35)

一  押収してある平成五年二月期法人税確定申告書一綴(同号の2)

判示第三の事実について

一  松本信幸の検察官に対する供述調書(甲9)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲36)

一  押収してある平成六年二月期法人税確定申告書一綴(同号の3)

(法令の適用)

被告人会社及び被告人三浦俊造の判示各所為は、各事業年度ごとに、いずれも法人税法一五九条一項(被告人会社については、さらに同法一六四条一項)に該当するところ、被告人会社については情状により同法一五九条二項を適用し、被告人三浦俊造については所定刑中懲役刑を選択することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人会社については同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内において罰金一五〇〇万円に、被告人三浦俊造については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重いと認める判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で懲役一年にそれぞれ処し、被告人三浦俊造に対し情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人三浦俊造(以下「被告人」という。)が、被告人会社に対する法人税を免れる目的で、社員に命じて毎日の売上金の一部を除外し、コンピューターを不正に操作させて売上げデータを改ざんし、これに基づき虚偽の確定申告書を提出するという不正な方法により、平成四年二月期から同六年二月期までの三事業年度にわたり法人税をほ脱した事案である。

ほ脱税額は三期合計約六〇二一万円と多額で、ほ脱税率も三期合計五一・七パーセントと決して低くなく、その犯情は悪質である。また、犯行の動機については、いわゆるバブル経済の崩壊により被告人が個人でなした株式取引による多額の損失の穴埋め、被告人個人で自由に使える金の確保の必要などはいずれも斟酌するに値しないものであり、犯行の態様についても、社員に命じてコンピューターを不正に操作させて、一日の売上げの約二パーセントに相当する額をほぼ毎日、継続的に売上げから除外し続けるという、巧妙・狡猾なものである。

本件のような脱税行為は、国家の財政的基盤を危うくするとともに納税者の税負担の公平を破り、特に納税義務者の誠実な申告を前提とする申告納税制度の根幹を揺るがすものとして強く非難されるべきである。

しかし、被告人は、本件発覚当初から犯行を率直に認め、査察官や検察官の捜査に協力的であったこと、本件脱税にかかる追加本税、重加算税及び延滞税などの附帯税の納付も完了してしること、及び被告人の公判廷における態度から、反省の情が十分窺えること、被告人は一家の経済生活の支柱として働いてきたこと、本件脱税により被告人会社も青色申告の特典を受けられなくなるなど、既にある程度の社会的、経済的制裁を受けていることなどの情状を総合的に考慮して、被告人らに対しては主文のとおり量刑するのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告人三浦に対し懲役一年、被告人会社に対し罰金二〇〇〇万円)

(裁判官 照屋常信)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例